研究室配属について

医学は進展し続ける生きた学問です。医学を学ぶにあたって、既存の医学知識を単に理解して暗記するのではなく、それらの知識がどのようにして得られてゆくのか、その科学的過程を早期から体験し学ぶことは、明日の医学を創る医学部生の皆さんにとても有意義なことです。
本学では2016年から研究室配属を選択科目として導入しています。6年間びっしりと埋まったカリキュラムの医学教育から少し離れて、学問的な興味と自主性に基づく研究活動を行って、創造力を掻き立て、独創性を伸ばし、リサーチマインドを涵養して、新たな課題を見つけて解決することのできる医師を目指しましょう。
2023年4月の時点で10名の医学部の学生さんが研究室に出入りしています。熱意と持続力があれば学会発表や論文執筆もできます。興味のあるかたは、気軽に生理学講座教員に声をかけてください。見学も随時受け付けています。

先輩の声

2年生から研究室配属で通って、本講座先代教授の桜井正樹名誉教授のご指導のもと、学会発表や論文発表も行った新戸瑞穂先生が、医学部6年生のとき(2018年5月)に寄せてくれた紹介文です。

はじめに

 帝京大学医学部6年の新戸瑞穂です(2018年現在)。生理学講座の研究室には2年生の頃から通い始め、今年で4年目になります。「研究室配属」は私が2年生の頃に新しく出来た制度で、この帝京大学医学部において研究室と学生の距離が一気に身近になりました。しかし興味があっても制度の仕組みが分からなかったり、活動内容がわからなかったりと、未だに窓口が狭いイメージを持たれる方が多いとおもいます。
 生理学講座における研究室配属の具体的な内容を、学生目線で紹介したいと思います。

研究室配属とは?

研究室配属は医学部1年生から任意で選択することができる選択科目で、希望する研究室で研究を行ったり臨床業務を見ることができる制度です。普段の座学では学ぶことができない医学の裏側を、実際に見学したり手を動かすことで学ぶことができます。

▽研究室配属の申し込み
 事務の教務課に用紙をもらい、生理学講座の先生を指導教官として選択し提出します。私の場合、その後指導教員の先生から直接連絡が来て、日程を合わせて面談を行いました。(註:配属の申し込み前でも、見学歓迎です)

研究内容

▽私のテーマ
 ホールセルパッチクランプ法を用いて電気生理学的に脊髄の運動ニューロンの研究を行う



▽研究室での実績
 幼若期(生後8〜10日)マウスには、皮質脊髄軸索〜上肢運動ニューロン間直接シナプスが一時的に形成され、高等霊長類に類似した分布特性を示すことをホールセルパッチクランプ法を用いて示しました。
 また、手内筋の運動ニューロンプールの位置を世界に先駆けて同定しました。



2015年   研究室配属
2015年12月 初のパッチクランプに成功
2016年7月 大学院学位論文中間発表会にてポスター発表
2017年7月 日本生理学会にてポスター発表
2017年2月 11個の細胞からパッチクランプに成功(人生最多、福田先生と大喜びで徹夜パッチ)
2018年6月 日本生理学会にてポスター発表
2018年  帝京医学雑誌 第四十一巻 第三号 論文掲載

生理学講座での活動

▽活動スケジュール
 先生から「自由に来て良い」と言われたので、私は月曜日以外(月曜はミーティングがあるので、あまり実験ができないため)火、水、木、金の週4日学校終わりに通いました。どうせやるなら粉骨砕身やれるだけやろうと考えていたので、基本は終電ギリギリまで実験をするストイックな生活をしていましたが、当校はテスト至上主義な一面もありますので、テスト2〜3週間ほど前から休ませてもらっていました。
 部活動は競技スキー部に所属に所属していたため、春休みの活動はできなかったのですが春以外の長期休暇、特に夏は毎日大学に来て研究をさせてもらっていました。

▽生理学講座について
 生理学とは文字通り「命のことわり」を学ぶ学問で、ヒトの正常機能について学ぶ学問です。研究室では神経生理学を研究しており、世界最先端の研究を行っています。私の研究テーマは、脊髄の運動ニューロンですが、生理学講座では様々な研究を行っており、第一線で研究されている先生方に師事を受け、免疫染色や逆行性標識、遺伝子工学やイメージングなど、様々な実験手法や生理学的な物の考え方を学ぶことができました。
 個人的に生理学を学んで一番驚いたのが、実験道具の手作りの多さです。精密な研究であるほど、またオリジナリティあふれる研究であるほど、既存の実験器具を使うことができないため手作りになります。そのため研究室には工務店のようにマニアックな工具に加え、謎の端材や段ボールが転がっており、秩序ある混沌が垣間見れます(必見)。先生方はとても優しく、風通しの良い明るい研究室ですので、学生の皆さんはテスト対策とかだけではなく、ぜひ遊びにきてみてください。

後輩に向けて

 研究室配属に興味があるけれど、なかなか一歩が踏み出せない学生が多いと思います。私もそうでした。やはり心配だったのが、進級と無関係の活動を行うと成績が落ちるんじゃないかという事と、実際にどこまでやらせていただけるのか、自分にできるのかということが一番の不安でした。しかし、学校生活の多くの時間を研究室に入り浸って過ごしましたが、テストと研究を効率良く切り替えることでむしろ成績は今まで以上に上がり、また生理学講座の先生方は本当に優しく、様々なことにチャレンジさせてくださいました。もし研究室配属での研究に二の足を踏んでる方がいましたら、ぜひチャレンジしてほしいと思います。
 時々同級生に「なんで、研究なんかしてるの?」と聞かれることがあります。確かに、医学部生には国家試験合格という大目標があり、最先端の研究なんていくらしても、国家試験の選択肢に自分の研究内容が出てくることはまずありません。だから無駄なのでしょうか。個人の意見ではありますが、そんなことはないと思います。試験の問題作製のバックグラウンドには臨床での経験があり、さらにその土台には基礎医学での研究成果があります。研究室配属での基礎研究により身についた物の考え方や視点があれば、製作者側の視点から問題を俯瞰することができ、定期試験一つとっても役に立ちました。さらに臨床での医師として働き始めたら、普段の臨床業務とは違った方向からの視点は必ず役に立つはずです。我が校には入学時は志が高いのにもかかわらず、テストに追われるにつれてテスト勉強しかせず大学6年間を過ごす学生がかなり多いように感じます。6年間を、国家試験の予備校として大学生活を過ごすのはあまりにも勿体ないと思います。ぜひ、研究にチャレンジしてみてください。